東京の伝統工芸品東京の伝統工芸品 Traditional Crafts of Tokyo

向山楽器店
(むこうやまがっきてん)

向山楽器店
(むこうやまがっきてん)

竹を編んで作った簾のランチョンマット。美しい音色を支える皮張りは、鮮やかな手さばきで一気に魅せる職人技。

美しく磨かれた棹(さお)の部分も必見です。

見学しよう

皮を三味線の胴に張り付ける「皮張り」の工程です。三味線の皮は消耗品で、しばしば張り替えます。なお、猫皮を扱う際は、犬皮より神経を使うため、見学はできないそうです。

皮を巻く布の硬さにも神経を使うそうです。張る準備をする間、皮は水で湿し、絞った布に巻いておきます。今回は犬皮を使った作業を見せていただきました。

皮を巻く布の硬さにも神経を使うそうです。

ほどよい硬さになるまで、ひたすら練ります。皮を三味線に張る際の糊(のり)作りです。寒梅粉という餅を加工してつくる粉を溶いて作ります。これを三味線の胴体に塗り、上から皮を張ります。

ほどよい硬さになるまで、ひたすら練ります。

一気に、思い切って。この場面も緊張します。皮の端には補強のための力革(ちからがわ)を当て、皮ともどもに木栓ではさみます。力革は、胴に張る皮と同じ素材の端切れからつくり、用意しておきます。

四辺とも同じようにはさんでいきます。

一気に、思い切って。この場面も緊張します。木栓で締めた皮を、糊をつけた胴にかぶせます。

一気に、思い切って。この場面も緊張します。

このときは、手だけでなく足も使っての力技の作業です。皮を糊で張りつけた胴を、張り台に乗せて、縛り付けてクサビを打ち込みます。

このときは、手だけでなく足も使っての力技の作業です。

神経のいる作業です。勘と経験の作業が黙々と行われます。縛ったひもに、もじりと呼ばれる象牙の小片をはさみ調整を行います。もじりをはさんだ部分の皮は、より強く引っ張られます。皮は張りすぎては破れてしまい、緩んでいると美しい音色を引き出せません。最良の音色を求めたギリギリの勝負です。

神経のいる作業です。勘と経験の作業が黙々と行われます。

「皮張りで音が決まる」。重要な工程を終え、ホッと一息です。皮を叩いて張り具合を見る。調整を繰り返し、ここらが頃合いと思えるところで作業を終了。一晩置いて糊を乾かします。

「皮張りで音が決まる」。重要な工程を終え、ホッと一息です。

体験しよう

紅木(こうき/レッドサンダー)をヤスリで磨き上げ、コースターまたは箸を作る体験です。ヤスリの目を少しずつ細かくすることで、紅木のつやがどんどん増すのが分かります。磨いてツヤを出す東京三味線ならではの技術です。

今回は紅木でコースターを作ります。木目やノコで引いた際の傷が見える紅木。これを磨いていくことで、表面を鏡のように輝かせることができます。東京三味線の技術の一端を体験します。

今回は紅木でコースターを作ります。

利き手でヤスリを、反対の手では紅木を動かします。傷を削り取るイメージで、表面を鉄のヤスリで磨きます。紅木は硬い素材なので、力を込めて削ります。

利き手でヤスリを、反対の手では紅木を動かします。

紅木から出た赤い粉は、紅木で作った材料の補修や、塗料などにも用いられます。表面の傷が小さくなると、今度は布ヤスリをかけます。根気が要りますが、手を動かし続けます。

紅木から出た赤い粉は、紅木で作った材料の補修や、塗料などにも用いられます。

刷毛をすべらせるように使うのがコツです。ヤスリに水をつけて磨きます。ヤスリの目を少しずつ細かくすることで、輝きが増します。磨くほどに表面が輝きはじめ、その面白さに取りつかれます。

没頭するあまり、なんと5時間も磨き続けた中学生がいるそうです。

没頭するあまり、なんと5時間も磨き続けた中学生がいるそうです。仕上げに油をつけた布で磨き、さらに粉磨きをします。経験がものを言う作業なので、ここは手伝ってくれることが多いようです。

ようやくコースターらしくなってきました。

覗き込むと顔が映りそうです。表面の傷が消え、丹念に磨かれた紅木です。塗料によらない「磨き」の技。その一端に触れることができます。

覗き込むと顔が映りそうです。

一番下は販売用。上は体験で作られた箸です。箸づくりの場合も、ひたすら木を磨いて仕上げる点は同じです。コースターより少し短い時間で仕上がります。

一番下は販売用。上は体験で作られた箸です。

担い手の声

型染めを指導してくれた岡野さん。三味線の皮張りは、千枚破らないと一人前になれない。

向山 正成 むこうやま まさなり
東京都伝統工芸士

「皮を張るのは、一番神経を使う作業です。『千枚破らないと、一人前にはなれない』と言われるほどで、とくに猫皮のときは電話が来ても出ませんね。皮は天然のものなので、ひとつとして同じものがなく、同じように張ることができません。ですから、何回やっても、あれっ?と思うことがあります。それこそ、一生勉強なのです」

「体験で来た子どもの目が本気になるのが楽しい」と話す向山さん。