東京の伝統工芸品東京の伝統工芸品 Traditional Crafts of Tokyo

江戸刺繍

えどししゅう

江戸刺繍

気が遠くなるほどの針数が、この解像度と輝きを生み出す。
日本の刺繍の歴史は、今から約千四百年前にまで遡る。仏教の伝来と共に刺繍による仏像が作られたのが始まりで、17世紀以降、刺繍入りの着物が町人階級にも普及。江戸刺繍は京風、加賀風に並ぶ日本刺繍の代表格と称されるようになった。制作は依頼人のオーダーを聞くところから始まり、図案や色などを決定。糸は赤一色でも二十種類近いバリエーションがあり、日本の伝統色に精通した職人の色彩感覚が発揮される。多数ある縫い方の中には、糸を駒に巻き、駒をはわせながら綴糸で留めていく駒縫いなど、日本独自の技法も存在する。職人は伝統的な技術を応用した新たな作品づくりに挑戦し、アーティストとしての個性を克明に刻んでゆく。多いときには数万回に及ぶ針数が生み出す細密画の如き作品は、絹糸ならではの光沢を放ち、木綿糸を使用する製品にはない質感を帯びる。角度を変える度に絹糸が輝きを変えることから、絵画や写真とは異なる魅力を持った鑑賞作品としての価値も高い。
主な製造地 足立区、新宿区、江東区ほか
指定年月日 昭和62年7月27日
伝統的に使用されてきた原材料 絹糸(平糸、撚糸)、本金糸、本銀糸、平金、平銀、絹織物、麻織物

伝統的な技術・技法

  1. 生地の上にすべて手作業で繍加工したものであること。
  2. 刺繍用の糸は絹糸、本金糸、本銀糸、平金、平銀、粉金、粉銀、漆糸を使用したものであること。
  3. 繍下地は絹織物又は麻織物を使用すること。

沿革と特徴

日本で刺繍が行われるようになったのは飛鳥時代。中国から仏教が伝来し、金銅仏とならんで刺繍による仏像、いわゆる繍仏(しゅうぶつ)が数多く作られたのが始まりである。現存する最古の作品は、奈良県・中宮寺に伝わる「天寿国曼荼羅繍帳」(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)で、推古天皇が聖徳太子の死を悼んで妥女(うねめ・宮中の女官)に製作させたものといわれている。

平安時代、公家社会が発達するにつれて、男性の束帯や女性の十二単などの入りに刺繍が登場、華やかさを競い合った。

さらに安土、桃山時代になると刺繍だけで模様を表現する主体性刺繍から染めに刺繍を入れた相互性刺繍が多くなり装飾性を増していくようになった。

江戸時代も中期、天下泰平ムードを背景に経済力をつけた町人階級が台頭、彼らは簡素な装いに飽き足らず、あらゆる染色技術に刺繍をくわえて絢爛豪華な着物を次々と生み出した。

あまりに高価なものが現れるに及んで、幕府は再三、奢侈禁止令をだして取り締まりを強化したが、江戸の繁栄とともに江戸刺繍は隆盛を続けた。

当時、刺繍職人は縫箔師・縫物師と呼ばれた。日本刺繍には京風、加賀風、江戸風があり、江戸刺繍は図柄を置くときに、空間を楽しむような刺繍の入れ方をするのが特徴である。

職人は糸の太さ、撚りの甘さなどを考えながら自分で糸を撚り、色とりどりの糸を使いながら緻密に、まるで精密画を描くように仕上げていく。

針と糸で、いかに一枚の布地に命を吹き込むか、ひと針ひと針、丹念に模様を表現する刺繍は、できあがった作品の華やかさとはうらはらに、地味で根気のいる仕事といえるだろう。

連絡先

産地組合名 東京刺繍協同組合
所在地 〒120-0043 足立区千住宮元町17-18
電話番号 03-3881-3148