東京の伝統工芸品東京の伝統工芸品 Traditional Crafts of Tokyo

江戸衣裳着人形

えどいしょうぎにんぎょう

江戸衣裳着人形

磨いてきたのは、生命を吹き込む技術でした。
桃の節句のひな人形、端午の節句の五月人形など、日本では親が子の成長や健康を祈り、人形を贈る文化が受け継がれてきた。ひな人形は8〜12世紀には公家の遊び道具だったが、17世紀に入ると庶民にも普及。衣裳着人形として発展を遂げた。その歴史を今に伝える江戸衣裳着人形の工程では、“如何にして人形に生命を吹き込むか”に心血が注がれる。木彫りで目や鼻、口を彫り、人間らしい空気感を表現する原型づくり。ガラス玉の瞳を入れた後の切り出しでは、瞼をどれくらい開かせるか、目と目をどれくらい離すかによって、人形が醸し出す優しさ、力強さといった印象が決定する。唇に紅をさすと体温を帯び、あえてデフォルメすることで人間らしさを演出するポーズを振り付ければ、たちまち生命が躍動する。職人は日常生活でも美を探究し続け、街で目にした少女にインスピレーションを得ることもある。人形と目が合った瞬間、運命的な出会いの如く惹かれるのは、そこに確かな生命力が息づいているからだろう。
主な製造地 江戸川区、墨田区、台東区ほか
指定年月日 昭和59年11月1日
平成19年3月9日(国)※
伝統的に使用されてきた原材料 桐塑(とうそ)及び木彫に使用する用材は、キリ。胴に使用するワラは稲ワラ等。髪に使用する糸は絹糸(スガ)、または毛は人毛。着せ付けに使用する生地は、絹織物、綿織物または麻織物。

※ 国:「江戸衣裳着人形」と「江戸甲冑」が「江戸節句人形」の名称で国指定を受けている。

伝統的な技術・技法

  1. 頭・胴体・手足づくりは、胡粉(ごふん)で5回以上の上塗りをする。
  2. 面相描きは、目ざらい又は描き目をしたのち、眉毛描き及び口紅さしをする。
  3. 胴組みは、針金を用いて手や足を組みつける。
  4. 着せ付けは、本仕立て衣裳又は和紙で裏打ちした衣裳を、綿又は木毛で肉づけして行う。

沿革と特徴

3月3日の桃の節句は、今日でも欠かすことのできない年中行事の一つになっている。

この節句は、別名を「雛祭り」と呼ばれているように、ひな人形が主役となっている。

ひなの起源は古く、「源氏物語」にも記されている。はじめは、都の公家などのごく限られた人々の遊び道具であったものが、江戸時代に入り、世の中が安定し、広く庶民にも普及していった。

江戸における人形作りが、一大飛躍を遂げたのは、5代将軍徳川綱吉の元禄年間(1688-1704)に、「十軒店(じゅけんだな)」で雛市を開設したことに始まるといわれている。

十軒店は、現在の中央区日本橋室町付近のことで、大変賑わったとの記録がのこされている。

江戸衣裳着人形には、三月のひな人形以外にも、5月の武者人形や尾山人形、歌舞伎人形、市松人形、御所人形などがある。

わらなどの胴体に顔や手足を付け、衣裳を着せつけて完成させるもので、百を超える工程を、一つ一つ丹念に仕上げていく。

江戸時代中期に爆発的な人気を博した大阪の歌舞伎役者「佐野川市松」の若衆姿をあらわした人形が、今日に市松人形の名前の由来ともなっている。

江戸衣裳着人形の特長は、江戸時代から受け継がれた技術・技法をもとに、現代的感覚を生かした美しさや可憐さにあるといわれ、これからも多くの人々の心をとらえていくことだろう。

連絡先

産地組合名 東京都雛人形工業協同組合
所在地 〒111-0052 台東区柳橋2-1-9 東商センタービル4階
電話番号 03-3861-3950