東京の伝統工芸品東京の伝統工芸品 Traditional Crafts of Tokyo

江戸指物

えどさしもの

江戸指物

釘はいっさい使わない。それが江戸のあたりまえ。
指物とは、釘を用いず、木の接合部の加工のみで板を組み合わせて作られた家具や雑貨である。江戸指物は17〜19世紀の経済や文化の発展に伴い、武家用から商人用の指物、歌舞伎役者用の楽屋鏡台などの梨園指物として発達した後、庶民にも浸透した。桑や桐といった天然素材の木目を生かすことを特徴とし、金具も最低限のものしか使用しない。過度な装飾を排した意匠は流行に左右されない価値を持ち、生活様式が多様化した現在でも人気が高い。それは、オーダーメイドで腕を磨いてきた技術の賜物である。職人たちは、サイズや用途といった要望に応えながら、江戸指物としての精巧さと面白味を失わない製品を作り上げてきた。湿度の変化による木の反りや劣化を見抜く高度な技術の背景には、目に見えない部分でも手を抜かない心意気、何十年も使い続けてほしいという想いがある。そして、江戸指物は年数を経るごとに味わい深い渋みを帯びる。何十年も大切に使われ続けることで育っていく特別な工芸品である。
主な製造地 台東区、荒川区、江東区ほか
指定年月日 昭和58年8月1日
平成9年5月14日(国)
伝統的に使用されてきた原材料 木地は、クワ、ケヤキ、キリ、スギ又はこれらと同等の材質を持つ用材とする。漆は、天然漆とする。

伝統的な技術・技法

  1. 板の接合は、矧接(はぎつぎ)、端嵌(はしばめ)接、平打接、組手接又は留接による。
  2. 框(棒)の接合は、相欠接(あいかきつぎ)、ほぞ接(ほぞつぎ。原文は「ほぞ」は漢字)又は留接による。
  3. 塗りは、拭漆(ふきうるし)、ろいろ塗り、塗り立て又は目弾き塗りによる。加飾をする場合には、蒔絵(まきえ)、螺鈿(らでん)等による。

沿革と特徴

指物の「指す」は「差す」ともいい、物差しで板の寸法を測り、しっかり組合わせふたや引き出しのある箱物類を作ることをいう。

指物の歴史は京都が長く、平安時代の宮廷文化までさかのぼることができ、当時は大工職の手でつくられていた。専門の指物師が生まれるのは室町時代以降、武家生活の中で、棚類、箪笥類、机類の調度品が増え、また茶の湯の発達に伴い箱物類など指物への需要が増えてからのことといわれている。こうした指物師は、戸障子(建具職)、宮殿師みやし(宮大工)、桧物師ひものし(曲物師)などともに大工職から分化していったものである。

京都の指物は、朝廷や公家用のもの、茶道用のものが発達し、雅や侘の世界の用具として愛用されてきた。

これに対し江戸指物は、将軍家、大名家などの武家用、徳川中期以降台頭してきた商人用、そして江戸歌舞伎役者用(梨園指物)として多く作られ今日に至っている。

桑、欅、桐など木目のきれいな原材料を生かし、外からは見えないところほど技術を駆使し、金釘打をほどこしたりしないで作られる江戸指物には、職人の心意気が感じられる。

切る、削る、突く、彫るという四つに集約される指物の技には、頑固なまでの職人の個性が感じられる。

木という生き物を相手にする、この世界に「硬い」「甘い」「とろい」「しぶい」「まろやか」「なま」など独特の形容詞があるのは、この間の事情を物語るものといえる。

連絡先

産地組合名 江戸指物協同組合
所在地 〒116-0002 荒川区荒川3-26-1
電話番号 03-3801-4676