東京の伝統工芸品東京の伝統工芸品 Traditional Crafts of Tokyo

江戸つまみ簪

えどつまみかんざし

江戸つまみ簪

小さな絹の布が、誰かの宝物になっていく。
正月や七五三、成人式といった節目の行事において、着物を着た女性の髪を美しく引き立てる簪。中でも、羽二重と呼ばれる絹の織物で花や鳥の形を作り、華やかに装飾した江戸つまみ簪は、最も着物に合う髪飾りとして古くから愛用されている。江戸つまみ簪の名は、正方形に裁断された羽二重をピンセットでつまみ、小さく折りたたんで形を作る工程に由来する。折り方には様々な技法があり、柔らかな印象を与える丸つまみ、力強さをイメージさせる角つまみなどを使い分け、菊や梅の花、蝶や鳳凰といったモチーフを作り上げていく。完成品には造花では醸し出せない重厚感があり、花や鳥はまるで生きているかのような生命感や躍動感を持つ。「時代のニーズに合った売れる製品こそ最良である」という職人の考えの下、近年は様々なデザインにも挑戦。海外の問屋からのオーダーも増えており、江戸つまみ簪の技術を学んだ日本人が北米で人気を博すなど、その美しいデザインは広く注目を集めている。
主な製造地 台東区、荒川区、墨田区ほか
指定年月日 昭和57年12月24日
伝統的に使用されてきた原材料 布地は、羽二重とする。木地は、ツゲ、ナシ、ホオ又はこれらと同等の材質を有する用材とする。

伝統的な技術・技法

  1. 裁ちは、裁ち包丁、木定規等を用いて、裁ち板の上で布地を正方形に裁断する。
  2. つまみは、丸つまみ、角つまみ、すじつまみ又は裏返しつまみにする。
  3. ふき(植えつけ)は、ピンセットを用いてつまみ片を台紙の上へ形づけする。
  4. 組上げは、極天糸を使用して形を整える。

沿革と特徴

「簪」は「髪刺し」に由来するともいわれている。古代においては、先のとがった細い棒に呪力が宿ると信じられ、髪に一本の細い髪刺しを挿すことによって魔を払うことができると考えられていた。

今日でいう「簪」はこの「髪刺し」ではなく、江戸時代の初めに、京都で作られていた花びら簪の一つの技法が、江戸に伝わって発達したのが起こりといわれている。

薄地の布を正方形に小さく切り、これを摘まんで折りたたみ、組合わせることにより、花や鳥の文様を作る「つまみ細工」のことである。

江戸時代中期になると、櫛、簪、楠玉などが作られていたようである。これらは彩りもきれいで、値段も手ごろであったため、参勤交代の折などの江戸みやげものとして喜ばれたといわれている。

福島県会津若松市の「白虎隊記念館」に陳列されている遺品の中に「つまみの楠玉」があり江戸からの土産物ではないかといわれている。

江戸時代の社会風俗を描いた「守貞漫稿」(もりさだまんこう)には「文政期(1818-30)頃、女性の島田髷の背の方に白、青、赤、紫などの縮緬の小片を集めて、菊の花や鶴の形をしたものを簪として用いた。」と記されている。江戸時代後期から明治初期にかけて活躍した浮世絵師の描いた婦人図の中にも、つまみ簪と思われるものを見ることができる。

今日、つまみ簪は東京が主要な産地である。お正月、七五三、十三まいり、成人式、結婚式などで女性の着物姿を一層ひきたたせている。

連絡先

産地組合名 東京髪飾品製造協同組合
所在地 〒111-0056 台東区小島2-9-10 台東デザイナーズビレッジ
電話番号 03-3861-0522