CRAFT CROSSINGS in TOKYO 第34回 伝統的工芸品月間国民会議全国大会 東京大会 11.3FRI-11.6MONCRAFT CROSSINGS in TOKYO 第34回 伝統的工芸品月間国民会議全国大会 東京大会 11.3FRI-11.6MON

江戸木版画

これからも馬楝で摺り続け、生涯職人を貫きたい。これからも馬楝で摺り続け、生涯職人を貫きたい。

浮世絵に代表される、日本独自の多色摺りの版画技術「江戸木版画」。飛躍的に発展したのは江戸時代中期から後期にかけて。葛飾北斎、歌川広重といった天才絵師たちの活躍がその礎を築いた。それから約200年が経ち、今もその伝統技法が受け継がれている。

木版画は、絵師が描いた絵を彫師が版木に彫り、摺師が版木に色を乗せて和紙に摺る、という工程を経て出来上がる。松崎啓三郎さんは1952年から摺りの技術を学び、60年以上経った今もその手に馬楝を持ち続けている生粋の江戸木版画摺師だ。

和紙にしっかりと色が乗るように、馬楝で力を込めて摺り上げる。
機械印刷にはない質感や独特な力強さを表現できるのも木版画の魅力。

「修業時代は、印刷機なんて少なかったから手摺りが主流。今でいう印刷屋だから、数をこなさなきゃならない。掛け紙やポチ袋を朝から晩まで摺っていましたよ」と松崎さん。4年と短い修業期間だったが、ここで習得した技が職人としての土台を築いた。

中でも、素早く正確に摺る技術を得たことが大きかった。何回も、何十回も色を重ねて摺り上げる木版画では、正確に版木に紙を乗せることが重要とされている。そのためには版木にある「見当」という目印を素早く見極め、躊躇することなく紙を乗せなければならない。少しのズレも許されない作業だが、松崎さんは瞬時に紙を見当に合わせる達人。その光景を見ていると、まるで指の腹に優秀なセンサーでも付いているのではないかと思うほど。「摺りは色と調子が大事。調子っていうのは、色のバランスみたいなもんかな。作品全体を見て、色が強く飛び出して見える部分があるのは良くないんです」と松崎さん。色の乗せ具合や力の加減など、あらゆることに気を配らなければいい作品はできない。

どの木版画も最初に摺るのは輪郭が描かれた墨版。版木に顔料を乗せて刷毛で広げ、紙を乗せて摺り上げる。これを土台にして1色ずつ、寸分の狂いもなく色版を重ねていく。中には1枚の絵が完成するのに30回以上摺り重ねるものも。

馬楝は松崎さんの自作。和紙を48枚も貼り合わせて漆を施した「当皮」に、竹皮を編んだものを渦巻き状に敷き詰めて作る。

松崎さんが摺った千社札(左)、掛け紙(中央)、カードサイズの浮世絵(右)。こうした数多く摺るもので腕を磨いた。

1色摺るために版木を1枚使うため、何色も使う作品は色の数だけ版木が必要。それだけ完成には手間と時間がかかる。

江戸時代中期の浮世絵師・東洲斎写楽の復刻作品(左)や、美人画で一世を風靡した「大正ロマン」を代表する画家・竹久夢二が描いた肉筆画を木版画で復刻した作品(右)も松崎さんが手掛けたもの。

紙・色・摺りのすべてに、気を配りながら摺っていく。紙・色・摺りのすべてに、気を配りながら摺っていく。

摺師の仕事は版木に紙を乗せて摺るだけではない。作業は紙の状態を整えるところから始まる。「紙は伸び縮みがありますから。摺っている途中で縮んでしまうと見当を合わせても版がズレてしまう。だから最初に紙を湿らせて、伸ばした状態を保つようにしておくんです。さらに湿らせた新聞紙で寝かせて、湿り加減を調整する。どんな紙でもきちんと面倒を見られるようになれば一人前だね」

紙を湿らせている間に色を作る。木版画は墨、藍、黄、紅の4色の顔料を紙・色・摺りのすべてに、気を配りながら摺っていく。松崎さんが摺った千社札(左)、掛け紙(中央)、カードサイズの浮世絵(右)。こうした数多く摺るもので腕を磨いた。混ぜてあらゆる色を再現する。「見本と同じような色を作っても、紙に摺り込んだ色は違うんですよ。紙の質によっても色は微妙に違うから、そこら辺も計算しながら調整していく。色が決まったら2〜3枚試し摺りをして、色や見当が合っていることを確認してから本番の作業に入るんです」

それでも何十枚と摺っているうちにズレが生じるものがある。そのため、摺り上がったものは1枚1枚確認し、少しでもズレがあればその原因を見抜き、微調整しながら摺り進めていく。そして、苦心していい仕事ができたときや、問屋さんや仲間内から作品を褒められたときが職人冥利に尽きると話す松崎さん。

「目標は生涯職人。できれば馬楝を持ったまま天に召されたいもんです。私にはこれしかないから、生まれ変わっても摺師をやるかもしれないね」

木版画を摺ることに人生を捧げ、技を極めてきた松崎さん。それらの作品には、美しさだけでなく、どこか熟練の職人だけが醸し出せる「味わい」も宿っている。

松崎啓三郎

江戸木版画 伝統工芸士 松崎啓三郎 Keizaburo Matsuzaki1937年、千葉県生まれ。52年から高木蟹泡堂を経営する高木省治氏に師事。4年間の修業を経て東京都町屋で独立。以来、摺師職人として活躍。88年に荒川区登録無形文化財保持者、2011年に荒川区指定無形文化財保持者に認定。14年には瑞宝単光章を受章。現在、荒川区伝統工芸技術保存副会長、東京伝統木版画工芸協同組合理事などを務める。松崎大包堂
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